撮影用ジオラマ製作記

その3.草の表現〜仕上げ

(1)草の表現

ここから各種植物を生やす作業に入ります。

はじめに土手・あぜなどの草地を表現します。材料は主にウッドランドシーニクス社のスポンジ粒です。
最初にターフとコースターフで下草を生やしたあと、フォーリッジクラスターを細かくちぎった物を適宜接着し、草むらややぶとしました。

まず枯草色のターフを撒く。

次は暗緑色。

そして明緑色。このあとさらにコースターフなどを撒く。

一通り草を生やしたあとの様子。

(2)稲田作り

続いて田畑の作物を表現していきます。

まず刈り入れ前の稲田ですが、これには前述のように人工芝を用いました。ただ、ひと口に人工芝と言っても、毛先の細かさや毛足の長さ等が異なる各種いろいろありますので、あちこちの店を廻って、稲に最適と思われる、毛先が細かくて毛足の長めなものを選びました。

最初に、貼り付ける稲田の形に合わせて切断しますが、このときは水面と同様、一旦型紙を取ってから行いました。

切断したら着色します。今回は刈り入れ直前の稲を表現するので、黄色を強めに調色したタミヤエナメルを、根元付近まで色が乗るように丹念に筆塗りしました。
それから、黒い基面部分のうち、外周の見える部分を泥色に塗っておきます。


切断・着色後の人工芝。
その後、ベースにゴム系接着剤で接着しますが、他の作業の邪魔にならないよう、接着は最後に行います。

(3)刈田の表現

次に刈田の表現です。

刈田はこのジオラマのメインテーマと位置付けていましたので、その表現方法についてはベース製作時からいろいろ考えていました。過去、雑誌などで拝見した技法など、様々な方法を検討してみましたが、地面に使った材料がマイナーな紙粘土のため、残念ながら決定的な方法を見つけることは出来ませんでした。

ただ「切り株」の材料については、裁縫用の糸を使うのが良さそうだったので、本番の前に簡単なテストピース(ダンボール片に前記の紙粘土を塗りつけたもの)を作って、いろいろな糸で試作してみました。その結果、糸は木綿のしつけ糸(仮縫い用の細い糸)を用い、植え込みの際は、ニードルで粘土面に穴を開けたところへ尖ったもので糸を押し込み、余分をカットすれば、何とかそれらしい感じに仕上がることがわかりました。

方法が決まれば、あとは作るだけです。押し込む道具はデザインナイフ(刃先をひっくり返して装着)、糸はあらかじめ絵の具で茶色に染めたものを使い、上記の作業を延々と繰り返していきました。

1.穴に糸を乗せる。

2.ナイフの先(反対側)で押し込む。

3.ハサミで切る。

4.いっちょあがり。
この作業は非常に手間暇が掛かります。田んぼ1面あたり6〜8時間は掛かったでしょうか。今回は合わせて200平方センチほどの小面積で済みましたが、広い面積を仕上げるには相当な忍耐力が要求されるのではないかと思います。(^^;)


続いて、刈った後の「稲わら」の表現です。
最近の稲刈りでは大型のコンバインを用いることが多く、その場合、稲は刈り取りと同時に脱穀され、稲わらは切り刻んで後方へ撒かれてしまうようです。
しかし刈田は、整然と掛けられた稲わらが並んでいる姿の方が、ずっと魅力的に感じます。「日本の秋」を表現するには是非とも再現したい所なので、こだわって挑戦してみることにしました。

まず、実物の稲わらの干し方についていろいろ調べてみましたが、実に様々なやり方があることが判明しました。
いろいろありすぎて迷ってしまうので(笑)、どの方法にするかはとりあえず保留。先に模型化するための材料探しから始めました。頭を柔らかくして、各業種の店舗を探し回った結果、園芸用の麻マット(“根巻き”などに使う物)の繊維がちょうど良い太さ・質感だったので、これを利用することにしました。


実際の製作は、稲わらの束から始めました。前述の麻マットをほぐして一本ずつ糸を取り出したら、一部のケバ立った繊維を取り除きます。それを3本まとめ、しつけ糸(切り株と同じ)で端から順に縛っていきます。間隔は8mmくらいにしました。端まで縛ったら余分なしつけ糸をカットし、同糸部分を水彩絵の具でわら色に塗った後、一縛り分ずつ切り分け、毛先を整える作業を兼ねて7mmくらいに調整しておきます。

わら束の材料(上)と、製作途中のわら束。
掛ける棒は下で説明。

さて、懸案の干し方ですが、材料との相性などを検討した結果、全国的に見られた、横に渡した棒に一列に掛けていく「横一列掛け」(勝手に命名)と、脱穀後のわらの先を束ねて円錐状に立てる「円錐立て」(同じく)の2種に決め、線路の両脇にある刈田一面ずつに分けて作ることにしました。
余談:本当は、東北地方でよく見られた、まっすぐ立てた棒に円柱状に積み上げていくやり方を再現したかったのですが、どうにも麻の繊維が固くて、しんなりとした稲わらの感じにならず、やむなく断念したのでした。
・・・「リンス」でもしたら良かったかも。(^^;)

決まったところで、「横一列掛け」をするための棒を組みます。材料はφ0.4真鍮線と、細いビニールコードの芯線(極細の銅線)です。まず2本の真鍮線を芯線で縛ったら、X字に開き、一旦ハンダ付けして“足”とします。これを2組立てて並べ、長い横棒を上に置いてハンダを流して固定。その後、中間にも2〜3組“足”を付ければOKです。

“足”を組立中。

簡単な治具で“足”を固定し、横棒をハンダ付け。

出来たら洗浄し、木材の色に塗装しておきます。
塗装後、先に作っておいたわら束を接着します。束の先を二分して、木工用ボンドで一束ずつていねいに接着していきました。最後にわらを軽く着色(水彩絵の具)して実物のイメージに近づけてから、棒の足を刈田に刺して接着、固定しました。

製作後、刈田に設置した状態。

また、もう一種の「円錐立て」ですが、こちらは上述のわら束を薄茶色に着色後、先を軽く円錐状に開き、中心に細く裂いた竹ひごを接着。この下端を刈田に開けた穴に差し込み、接着して表現しました。

わら束に、竹ひごの取り付け足を接着。

刈田に接着したところ。ボンドは竹ひごのみに付ける。
付け終わったら、わら束の上端にボンド3倍液をチョンと流して、束がほぐれないようにしておきました。

(4)畑作物の表現

田の次は畑です。
今回は田がメインなので、畑は小さな面積のものが3カ所しかありませんが、作物の種類を多くしたため、予想より大幅に手間取ってしまいました・・・。


まずは1カ所目、カーブした線路の外側・踏切近くにソバ畑を作りました。いわゆる「秋ソバ」で、ちょうど白い花が咲いている頃です。
平坦な地面に、亀の子ダワシの繊維を接着して“茎”を作ったら、上からコースターフを付けて“葉”とし、“花”は白いプラシートの削り粉をまぶして表現してみました。

まず、タワシの繊維で“茎”を植える。

続いてコースターフで“葉”を付ける。

“花”は白いプラシートを削った粉を使用。

“葉”の上に撒けば出来上がり。


続いて2カ所目、線路内側の水路沿いに大豆畑を表現します。収穫間近で葉が色褪せた頃の姿です。
これもソバ畑同様、タワシの繊維(こちらは白いもの)をうねの山に1列に植え、くすんだ黄緑色に着色して“茎”とし、同じくくすんだ色のコースターフを接着して“葉”を表現しました。

タワシの繊維で“茎”を作り、コースターフを付ける。

出来上がり。


最後の一カ所、踏切付近の道路脇の畑ですが、ここは近所の農家が自家用の野菜を栽培する畑、という設定にしました。つまり、いろいろな作物が少しずつ植わっている、最近都市近郊で流行の「市民農園」のような畑です。
ここにはネギ・小松菜・ニンジン等を植えてみましたが、どれがどれを表現したものなのかは、作者にしか解らないかもしれません。(^^;;)

ねこじゃらしにターフをまぶして作った作物。

左:小松菜?、右:ネギ。

左端から、ツル性作物、何かの苗?、ニンジン?、大根?など。

全体をみる。多品種少量生産(?)
一応簡単に説明しておくと、ネギは古歯ブラシの毛先を植えて白緑に塗装したもの、ニンジンと大根はエノコログサ(ねこじゃらし)の毛にターフをまぶしたもの、そして組んだ棒に絡みつくツル性の作物(作者も何なのかわかってません)はφ0.3真鍮線で組んだ棒にフォーリッジを絡ませて表現したもの、などです。

(5)樹木製作

田畑の作物がようやく終わったところで、樹木の製作に移ります。
こちらは至って一般的な技法によりました。おなじみの‘針金よじり法’です。

広葉樹は電気コードの芯(φ0.26銅線)を15〜35本束ね、枝ぶりがリアルになるよう実物の写真をよく見ながらよじっていきます。そのあと幹にハンダをたっぷり流して幹肌を整え、タミヤのアクリル塗料で塗装。最後にフォーリッジクラスターをほぐしたものを“葉”として木工用ボンドで接着して作りました。

広葉樹の製作過程。

地面に植えたところ。


針葉樹(杉)は軟鉄針金(φ0.55)を5〜7本、枝として別の針金を適宜挟みながらよじってハンダで固めた“幹”に、同じくフォーリッジクラスターを接着したものです。

針葉樹の製作過程。

植林後。

ポイントは、葉となるフォーリッジクラスターの付け方でしょうか。大きな塊をちぎる際、中心から外側へ開くようにして、なるべく‘裂け目’を多くします。枝に接着するときも、やや間隔を空け気味にして葉の間が所々透けて見える様にすると、より実感的な樹木になるような気がします。

完成した樹木は、幹をニードルで開けた地面の穴へ差し込んで植えました。
なお、灌木はフォーリッジクラスターのみで表現しています。

(6)仕上げ

最後に仕上げです。ようやくここまでたどり着くことが出来ました。(笑)
まず、作っておいた人工芝の稲を接着します。
次に未取付だった小物(踏切の機器箱・遮断機)を接着。
(ちなみに、踏切警報機は架線柱とともに取り外し式としました。収納の関係です。また、樹木を植えたコーナー部分も地面ごと取り外せるようにしましたが、こちらは撮影の便を考慮し、同じ底面形状のものを数種類作って交換式にしてあります。)
それから舗装道路の踏切直前に停止線を入れますが、これは白デカールで簡単に済ませました。

小物を付けた踏切付近。停止線も入っている。

そのあと、改めてジオラマ全体を見渡してみて、部分的に水彩絵の具でニュアンスを付けます。全体のバランスを取りながら、初秋らしいくすんだ色(茶褐色や枯葉色など)を乗せていきますが、この際は風景画に着色するときのような、アーティスティックな気分で行うと良いかもしれません。(笑)

以上が済んだら、ベースの外周をタミヤのアクリル塗料(オリーブドラブ)で塗装し、一応の完成としました。

完成後、上から。
撮影例。“実りの秋”。

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